糖尿病の三大合併症の一つである糖尿病網膜症は、現在日本の中途失明原因の第2位です。統計によると、糖尿病の患者さんの16.9%に糖尿病網膜症の可能性があることが分かっています。
また、糖尿病を患っている期間が長いほど頻度が高くなり、糖尿病を発症してから10年経過した人では、既に50~60%に糖尿病網膜症が発症していると言われています。
糖尿病網膜症は、糖尿病によって網膜の中の小さな血管から障害される病気です。
進行の程度によって、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の3段階に大きく分けられます。
初期の単純網膜症の段階では、網膜の血管が傷んで血管瘤と呼ばれる「こぶ」が出来たり、網膜内に出血が発生します。更に硬性白斑と言う血液中の成分が網膜内に溜まってきたりします。
増殖前網膜症の段階に進むと、血管の傷みが更に進んで出血が増え、血管が詰まった所に軟性白斑という白い綿の様なものが出来ます。軟性白斑が多発している場合は、病気の程度は悪いと言えます。
血液が流れなくなった無血管野は、蛍光眼底造影写真をしてみなければ分かりません。
増殖網膜症に進むと、網膜から硝子体に向かって新生血管が伸びてきます。やっつけ仕事で作られた新生血管が破れると、硝子体出血が起こります。また、硝子体に繊維性の膜が出来て来ます。
これを増殖膜と言って厄介な膜です。その膜は眼内で収縮したりして、健康な網膜を引っ張ると網膜剥離が発生します。
症状は、最も視力に関係する黄斑部に、どれだけ血管の異常が出たかによって決まります。黄斑部が侵されていなければ、たとえ増殖網膜症であっても無症状の事もあります。
しかしながら症状が重くになるにつれて、一般的には自覚症状が現れます。
糖尿病網膜症の自覚症状は、進行の程度が軽ければ出にくいのですが、黄斑部に異常が出た場合は、どの段階でも次のような自覚症状が現れることがあります。
進行の程度が重くなるにつれて、その頻度は増えます。
糖尿病と診断された方は、まず眼科を受診して、異常がなくても半年に一度は眼底検査を受ける必要があります。
眼科では、目の奥の眼科を観察する眼底検査を行って、網膜の血管の状態や出血などを調べます。
異常が疑われたり、診断を確定するためには、腕の静脈から蛍光造影剤を注射して眼底を詳しく調べる、蛍光眼底造影検査が行われます。
最近では、網膜の断面を3Dで観察する光干渉断層計(OCT)による検査が多用されます。OCTによる検査は、糖尿病網膜症に合併する糖尿病性黄斑症など、黄斑部の異常を調べるのに有効な検査です。
蛍光眼底造影検査と異なり、造影剤を使わない検査ですから、患者さんへの負担はほとんどありません。
糖尿病網膜症の治療の基本は、血糖コントロールをしっかり行うことです。指標となるHbA1cを7.0%未満に維持するように努力します。同時に、高血圧症、脂質異常症の治療を行います。そして禁煙にも取り組みます。
単純網膜症の段階では、こうした治療を行って進行を抑える事が出来ます。
増殖前網膜症や増殖網膜症に進むと、血糖コントロールなどの治療と合わせて眼科的な治療が必要になって来ます。
網膜の血管が詰まった部分(無血管野)にレーザー光線を当てて、健常な網膜に必要な血液を送ったり、そこで作られる新生血管を発生させる化学物質を無くすために、網膜光凝固術が行われます。
新生血管によって黄斑部が障害されて視力が低下するのを防ぐ事を目的とした治療で、不要になった悪い網膜を間引くわけですから、健康だった頃の網膜に戻す治療方法ではありません。
運悪く、硝子体出血が発生したり、網膜剥離を伴う場合は、硝子体出血や増殖膜を除去したり、剥がれてしまった網膜を元に戻したりする硝子体手術が必要です。
硝子体手術中にも、眼内光凝固術を行って、悪い網膜を焼き固める事もあります。
術後は、眼内に空気やガスを注入したりする場合があり、その時は術後にうつ伏せの安静が必要になります。